魔王の城の屋根の上にいつもより巨大な月がある。その月を屋根の上で見上げている勇者と魔王。
魔王「ここまででかいのは滅多に見られないんだぞ」
勇者「あぁ。人間界にいたときも、ここまでのは見たことないな。」
魔王「それにしても、屋根に上るのは感心しないな。今はお前一人の身体じゃないんだぞ」
勇者「心配しなくても落ちるようなヘマしないって」
魔王「それは分かってるんだがな・・・」
勇者「そんな様子じゃ、この子が出てきた時には子煩悩になりそうだな」
勇者は冗談っぽく笑いながら自分の腹部に手を添えた。
魔王「俺が生まれた頃の先代はかなりの親ばかだったらしいがな。俺はそんな風にはならんぞ」
勇者「それはどうだろうな?」
魔王「・・・たぶん」
勇者「断言はしないんだな。」
四天王2「なんだかんだ言ったところで、魔王様はデレデレになるにきまってるわ」
四天王3「そうアルなー。」
魔王「お前らいつの間に・・・」
四天王2「月が綺麗だったからここで月見酒でもしようと思って」
四天王3「我は相伴に与ろうと思っただけアル。」
四天王2「長かったわよねー勇者ちゃんが魔王様を受け入れるまで」
四天王3「そうアルなー。やっぱり勢いも大事アルな!」
魔王「せっかくいい雰囲気だったのに」
四天王2「月が綺麗ね」
四天王3「死んでもいいアル」
四天王2「そんなやりとりでもしてたのかしら?」
魔王「そんなことするか!」
四天王2と3は魔王の了解も得ずに魔王と勇者の間に割って入った。
魔王「なっんでここに来るんだ!」
四天王3「魔王様はしょっちゅう勇者に触ってるんだから、たまには我にも譲ってほしいアル」
魔王「勇者は俺のだ。譲らんぞ」
四天王2「どうせこの後いちゃつくんでしょう?だったら少しぐらいいいじゃないの」
魔王「勇者もなんか言ってやれ」
勇者「いや、俺は別に・・・」
四天王3「勇者もいいって言ってるアル。」
魔王「いいとは言って無いだろ!」
四天王1「やれやれ、一人静かに茶でも飲もうと思ってたのに」
魔王「お前まで!」
四天王1「心配しなくても俺は邪魔しないよ」
四天王4「なんだかんだで四天王がそろっちゃいましたね。」
勇者「お前らヒマなんだな」
四天王4「まぁヒマといえばヒマですね。今のところ境界を脅かす存在もいませんし。」
四天王3「勇者の襲来がハイライトみたいなもんだったアルからな」
勇者「襲来した覚えはないんだけどな・・・むしろ俺は拉致られた方だぞ」
四天王2「そんなこともあったわねぇ。そう考えると感慨深いわぁ・・・」
四天王3「アレルギー反応起こすレベルで魔王様を拒否ってた勇者が・・・」
勇者「そこまでは拒否ってないぞ・・・ただ、ちょっと心の準備ができなかっただけで」
四天王2「まぁこっちはこっちでいろいろ大変だったわよね」
四天王3「主に先代が暴走気味だったせいアル」
魔王「そこは正直すまんかったと思ってる」
先代「呼んだか?」
月をバックに先代魔王が現れた。
先代「話は聞いたぞ。これで俺もジジイってわけか」
魔王「お前みたいなジジイがいるか!!」
先代は魔王にはかまわず勇者の横に降り立った。
先代「なんだか顔つきが変わったように見えるな」
勇者「気のせいじゃないか?」
先代「ふふん。妻もこいつが腹の中にいる頃から雰囲気が変わったように思える。」
魔王「気安く触るなクソオヤジ!」
先代「まったく余裕が無いな?これから父親になるってのに、そんなんで大丈夫か?」
元勇者「まぁ、あなたも似たようなものだったけどね?」
先代「そんなことは・・・無かっただろ・・・」
元勇者「あら?声が小さくなってってるわよ?」
勇者「つまりその父親である先代の前の魔王もこんなかんじだったと・・・」
魔王「俺がいずれはこうなると?」
元勇者「何だかんだ言っても似てるものね。やっぱり親子なんだなって思うわ」
先代「俺のようになることのどこが不満なんだ」
魔王「むしろ不満しか無えわ」
先代と魔王の小競り合いを周りは生暖かい目で見守っていた。
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