爆心地

俺と涯とユニは、安くても質のいい服を売ってる店に来ていた。
「こういう場所は初めてだな」
「だろうな」
「ジーンズがこんな値段で買えるのか・・・驚きだな」
「庶民は何万もするジーンズなんてはけないんだよ」
「どれを選べばいいのか分からんな」
「自分のサイズに合ったのを・・・」
「サイズってなんだ？」
「測ってみないと分からない・・・か」
俺は店員さんを呼んで涯のサイズを測ってくれるように頼んだ。そうこうしてると、店内にいた客の数人がこっちを見ながらヒソヒソ話しているのに気づいた。中には携帯を出してこちらに向けている人までいる。
「なんだか見られてる気がするが・・・」
「お前は見られんの慣れてるだろ？スターなんだし」
「まぁそうだが、こちらの人間にとっては俺も一般人と変わらんはずだぞ？」
「まぁ気にすんな」
俺は二人が服を選んでいる間、暇なので店内にあったパンフレットを何気なく見ていた。モデルはなにを着てもかっこよく見えるんだな～などとぼんやりと考えていると、パンフレットの中にユニを発見した。
「んん？」
背格好も顔立ちもユニそっくり・・・というより、本人にしか見えない。
「なんだ人の顔をじろじろと・・・」
「これ・・・お前じゃないよな？」
「驚くほどよく似てるが、俺ではない。」
「他人の空似にしては似すぎじゃないか？」
「ここに名前が出てる」
「キム・・・ヒョンジュ？」
「見られてたのは、これのせいか」
ユニはやけに冷静だ。
「今頃ツイッターで呟かれてるかもな？」
「いくらでも呟けばいいだろ。俺には関係ない」
「ツイッターってなんだ？」
いつの間にか横にいた涯が話に入ってきた。
「自分が今なにしてるとかを伝えるものだ」
「そんなこといちいち伝えて何がしたいんだ？」
「･･･そこら辺は俺に聞くな。正直分からん」
「そんなことより会計だ。」
なんとか1万以内には収まったが、予想外の出費は痛すぎる。
「はぁ・・・俺の金」
「溜息ついてると幸せが逃げるぞ」
「溜息しか出無えよ・・・」

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俺と涯とユニは、俺がいつも行っている銭湯に来ている。
「ベッドが無いのがな・・・」
「ベッドなんて入れる隙間無えんだよ・・・」
「おまけにトイレは共同・・・」
「アイドルはトイレしないんだろ？」
「そんなアイドル都市伝説を信じてるわけじゃないだろ」
「まぁな」
俺とユニが話してる横で、涯はスポンジの泡を作るのに夢中だ。
「すごいなコレ。なんかいい匂いがする」
「あんま無駄遣いすんなよ。」
「貧乏臭いこと言ってるな」
「貧乏なんだから仕方ないだろ・・・」
「家の中で着てる服のセンスもありえないな」
「あのなぁ・・・トータルで車一台するようなファッションができるのは金持ってる奴だけなんだぞ」
「俺は量産品なんて着なかったからな。全部世界に一着だけのものだ」
「全部目玉が飛び出すほど高いんだろ」
「服に金を掛ける奴の気持ちは分からんな」
涯の場合は服に掛ける金がないだけなんだけどな・・・とは口が裂けても言えない。
「これからは量産品を着るしかないわけか」
「新しい服を買いに行くまでは俺の服で我慢してくれ」
「足の長さが違うだろ」
二人同時に言われると、さすがの俺でも凹みそうになる。
「仕方ないだろ他に服が無いんだから」
「背に腹は代えられないか。」
「とりあえず動きやすければいいだろ」
結局涯とユニは俺のジャージとＴシャツを着ることになった。
「センスが悪い」
「俺が買ったんじゃなくてもらったんだよ」
ユニが着ているのは、友人が旅行のお土産にくれたＴシャツで、前面に『大和魂』と書かれている。
「なんでよりによって大和魂なんだ？」
「新しいのがそれだからだよ。」
「なんでだ・・・胸だけ苦しい」
「アレだ恋わずらいだ」
「いい加減なことを言うな」
涯の方はＴシャツがパツパツになっている。
「もっとマシなのはないのか？」
「他のもだいたいそんなんだぞ」
「早く服を調達するべきだな」
「予算ってのがあるんだからな。あんま高いとこは行かないぞ」
「それはさっき聞いた」
「少なくともこの状態よりはマシなものになることを願うしかないな」

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バイトが終わり、弁当をもらってまっすぐ家に帰る。電気の付いている部屋に帰ってくるのはなんとも不思議な感覚だ。これで待っているのが美人な奥さんとかだったらもんくは無いのだが・・・。
「ただいま」
「遅かったな」
涯とユニはテレビを見ながら、酒を飲んでいた。
「お前の家にはまともな食材が無いな」
「悪かったな。」
台所を見ると料理をした形跡がある。
「料理なんてできるのか？」
「まぁな」
「・・・ってその酒。俺が楽しみにとっておいたやつ！」
「そうだったのか？期間限定とか書いてあったから、どんなものかと思ってな」
「取られたくなきゃ名前でも書いておけ」
「書いておいても取るだろ・・・」
俺はげんなりしながら銭湯に行く準備を始めた。
「どこに行く？」
「銭湯だよ」
「こんな時間からか？」
「俺はいっつもこの時間だよ」
なんだかんだで涯とユニも一緒に銭湯に行くことになった。いつものように銭湯は空いていて、貸しきり状態のようなかんじだ。
「狭いな」
「ここがセントウか。あの中に入ればいいのか？」
「湯船に入る前に身体を洗え」
当然というかなんというか、涯もユニも無駄な肉が一切無い。
「安っぽいシャンプーだな」
「仕方ないだろ」
「キューティクルが死滅しそうだ」
「そこまでひどくは無いだろ？」
「人がいないな。まぁ、静かでいいが」
「この時間帯はいっつもこんなかんじだ」
「毎日通うのは面倒くさそうだな。風呂のある部屋に住めばいいのに」
「それができたら苦労しねぇよ。」
「結花の家にはムダに広い風呂があったけどな」
「一軒家に住んでる人間と比べないでくれよ。」
「それにしてもあの部屋はひどいな」
「一人で住む分には問題無いんだよ・・・」

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「俺は小説の中では韓流スターだ。」
「だろうな」
「彼女もいる」
「いそうな顔してるもんな」
「だが、こちらの世界では俺はスターでもなければ、彼女もいない」
「・・・なぁ、そこで自分がこの世界の住人じゃないって気づいたのか？」
「テレビを付ければ俺を見ない日はないぐらい俺で溢れてるんだぞ？」
「・・・あぁ」
「この世界にはそれがない。」
「ハンリュウスターとはなんだ？」
アイスを食べ終えたらしい涯がユニの顔を見ながら聞いてくる。
「韓国で大人気の人って意味だ。歌ったり踊ったりするんだ」
「戦うだけしか能が無いのかと思ってたが、歌ったり踊ったりできるのか」
「俺は歌とかよりも演技が基本だ。」
「今さらだけども、流暢な日本語喋るよな」
「小説が日本語で書かれてたからだろうな」
「韓国語も喋れるのか？」
「喋れないこともないが、今は必要ないだろ？」
「確かに・・・」
韓国語が分からない俺に対して韓国語で話されても、会話が成立しない。
「とりあえず世界感がこっちに近いだけが救いだな・・・」
「むさ苦しい男ばかりの空間はいただけないけどな」
「悪かったな結花さんみたいな華が無くて」
「しかもこの部屋は狭い。犬小屋みたいだ。風呂はどうしてるんだ」
「銭湯に行ってるよ」
「戦闘に行くだと？丸腰のお前がか？」
横から涯が割り込んでくる。さすがにユニの方は銭湯を戦闘と間違えることはしなかったが。
「まぁ、軍にいたころよりはマシか・・・」
「そういえばユニって何歳なんだ？」
「32歳だが？それがどうした？」
外見的には20代半ばぐらいだと思っていたせいか、かなりの衝撃を受けた。
「なんだお前30代だったのか。俺より年上だな」
俺の記憶が正しければ涯は23歳ぐらいだったはずだ。
「目上の人には礼儀正しくしろと教わらなかったのか？」
「そんなの知らんな。勝負では俺が勝った。つまり・・・俺のが上ってことだ」
「頼むから家の中でけんかしないでくれよ。この部屋壁薄いから、騒ぐと筒抜けなんだぞ」
「こんな安っぽい部屋で防音がしっかりしてるとは思ってなかったがな」
「問題を起こしたら大家さんに追い出されるんだぞ」
「オオヤとは何者だ？」
「そんなことも知らないのか？」
「なんだと？」
「頼むから波風立てずにおとなしくしてくれよ！」

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俺は目覚まし時計の音で目を覚ました。妙に頭がすっきりしていて、今まで見てきたものをはっきりと思い出せる。夢にしては鮮明すぎるが、現実にしてはぶっとびすぎているいろんなことが・・・
「はぁ・・・夢か」
「夢じゃないと言ってるだろ」
俺が目を向けると、テレビの前に涯がいた。しかも俺が楽しみにとってあったハーゲンダッツを食べている。
「なっ・・・なっ・・・何してるんだぁぁぁぁ！！！」
「この家はしけた食い物しか置いてないんだな」
「しけた食い物で悪かったな・・・って、ふぉぉぉ？！」
何故かユニが俺の部屋にいてカップ麺を食べていた。
「なんだ。鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔して。」
「ななななんでここにいるるる？！」
「なんでって・・・あんたが万年筆の権利を取ったからだろ」
「もれなく付いてきます？！」
「人をおまけみたいに言うのはやめてもらおうか。」
「っていうか、結花さんはどうなるんだ？」
「万年筆の権利を喪失した。だから、俺のことも覚えていない」
「そういうシステム？」
俺は涯とユニの戦いまで記憶を遡ってみた。一時はどうなることかと思ったが、不思議なことに俺や結花さんやこども達にはまったくダメージを与えることなく戦闘は終了した。拳銃と刀じゃ勝負にならないんじゃないかと言う考えは、二人の戦いを見てるうちに吹き飛んだ。
「・・・拳銃はまだ持ってるのか？」
「持ってるが？」
「銃刀法違反がもう一人・・・か」
「案ずるな。俺が持っている拳銃も、この男の持っている刀も普通の人間には見えない」
「ジュウトウホウとやらで騒ぐ必要ももう無いということだな」
警察の世話になる心配は消えたが、自分が普通じゃないと言われるのはなんだか複雑だ。
「ところで・・・ユニは日本人じゃないよな？」
「韓国人ってことになってるな。」
「ことになってる？」
「韓国籍は無いからな。」
「韓国籍が無い？」
「経歴みたいなものはあるが、実際の世界じゃ通用しない。俺は結花の書いた小説の中の人間だ」
「ちょっと待て・・・小説の中の人間ってどういう・・・」
「そっちの男も、あんたの小説の中の人間なんだろう？」
涯はアイスを食べていてこちらの話を聞いていない。
「なんで自分がこっちの世界の住人じゃないって分かったんだ？」
ユニが説明を始めた。

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「話すって・・・なにを？」
「万年筆に関わることを」
結花と呼ばれた女性はカバンの中から万年筆を取り出した。俺が持っているのと形は同じだが、色は薄いピンクで彼女の雰囲気に良く似合っている。
「あなたにも見えるでしょ？」
「あ・・・あぁ。見えてる。」
「この万年筆は誰にでも見えるわけじゃないの」
「確かに、こども達には見えなかったらしいな。ガラスにも写らないし」
電車の窓には俺達の姿がうつっているが、万年筆はうつっていない。
「これが特殊な物なのは分かったが、何故お前らは欲しがる？」
涯とユニはまだにらみ合っている。
「それを今から説明してやると言ってるんだ。おとなしく待ってろ」
「回りくどいのは性に合わん」
「本来なら説明などしてやる理由も無いが、結花が話したいというからな」
「この女の言いなりか？」
ますます険悪な雰囲気になっている。
「落ち着けって、兎に角分からないことが多いんだ。今は結花さんの話を聞こう」
「わたしもあなたも、この万年筆を手に入れたと同時にある資格を手に入れたの。」
「ある資格って？」
「戦う資格」
「ちょっと待って。戦うって何と？社会の理不尽とか？」
「戦って、相手の万年筆を奪い取るの。」
「おいおい・・・ずいぶん乱暴だな」
「そうやって7本の万年筆を集めれば願いをかなえられ・・・」
「もしかして、7個の玉を集めたらでっかい龍が出てきてどんな願いも叶えるっていう漫画の読みすぎでこんなことを？」
「万年筆を手に入れたときに一つの能力が手に入ったの」
彼女は俺の話を全力でスルーして、説明を続ける。
「わたしの能力はこれ、空間を支配する力」
「空間を支配する？」
「この電車は、外の世界とは断絶された状態にあるの。わたしが空間を繋げないかぎり、この電車は永遠に走り続ける。もちろん中にいるあなたは出ることができない」
「帰りたければ万年筆を寄越せという意味だ」
「いや。方法ならまだあるぞ。その女を倒して能力を止めればいい」
涯は刀を抜き放った。
「こんな箱の中で朽ち果てるのはごめんだからな」
「おいおいおいおい！相手は女性だぞ？！」
「心配するな半殺しで止めてやる」
「心配するわ！」
「結局こうなるわけか」
ユニの方も両手に拳銃を構えている。
「まさかこの中でドンパチやる気か？！こどももいるんだぞ！」
俺の声を無視して涯とユニは戦い始めてしまった。

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一体何分経ったのか分からないが、電車は止まらない。
「いつまでこの箱に乗ってればいいんだ？」
「だから俺に聞かれても困るって！」
「万年筆を渡せばすぐにでも降ろしてやるよ」
「万年筆なんて持ってないって！」
「仕方ないな。あまり手荒なまねはしたくなかったんだが」
黒髪の男が突然懐から拳銃を取り出し俺の眉間に向けてきた。
「ちょっちょちょっ待て待て！なんで拳銃？！」
「待ってユニ。銃は出さないで」
ユニと言われた男はおとなしく拳銃をしまった。
「・・・モデルガンとか・・・かな？」
「お前の頭で試してやろうか？」
男は表情を変えないまま言ってきた。冗談を言ってる人間の目じゃないと判断した俺は逃げたい気持ちでいっぱいになった。この男女が何者で、何の目的があって俺に近づいたのかは分からないが、あまりユカイな展開にはならなさそうだと本能が告げている。
「万年筆は・・・その・・・拾ったけども・・・今は持ってない。家にあるんだ」
「お前の右ポケットに入ってるだろ」
俺は言われるままに右ポケットを探ってみた。何も入ってないはずのポケットの中に固い感触があり、引き出してみるとそれは間違いなく引き出しに入れたはずの万年筆だった。
「俺・・・引き出しにしまったよな？」
「そうだな」
「確かに入れたよな？」
「俺も見た」
「なんでここにある？」
「そんなの知らん」
「さっさとそいつをこちらに寄越せ」
ユニが手を伸ばしてきた。横で見ていた涯がその手を払った。
「突然出てきて、人の物を奪うのはどうかと思うがな」
「部外者は引っ込んでろ」
「この万年筆にどんな意味があるのか知らんが・・・お前の態度は気に入らない」
涯は今にも抜刀しそうな勢いだ。
「ちゃんと理由を話さないと・・・だめみたいだね」
「結花」
「何も知らないままじゃ、不公平だもの」
結花と呼ばれた女性が、万年筆に関することを話し始めた。

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俺達は切符を買って電車に乗り込んだ。
「おじちゃん。すいてるね～」
「そうだな」
俺達の乗り込んだ車両には俺達と一組の男女が乗っているだけだった。混むような時間帯でもなかったから、別に気にもしないで座席に座った。
「この輪はなんのためにあるんだ？」
涯はつり革を眺めている。
「混んでる時は立って乗るから、倒れないようにそれにつかまるんだ」
「倒れる？」
「止まる時にこう・・・倒れそうになるんだよ」
「分からんな」
「おじちゃん・・・なんか・・・眠い」
「ぼくも・・・」
そう言うと、透と明は寝息を立て始めた。
「なんだ急に？」
「ごめんなさい。こども達には眠ってもらったの」
さっきまで離れた座席に座っていたはずの女性が俺の前に立っていた。こげ茶のロングヘアに、榛色の目の女優かモデルなんじゃないかと思うような美人だった。
「眠ってもらったってどういう・・・」
いいかげん次の駅に着いてもいい頃なのに、電車のスピードは落ちない。
「あなた・・・持ってるんでしょ？」
「は？」
「万年筆」
確かに俺は万年筆を拾ったが、どうしてこの女性がそのことを知っているのか分からない。
「なんのことだか？」
「とぼけてもムダだ。お前が持っているのは分かっている」
女性と一緒にいた男も近づいてきた。こちらは黒髪に黒目で、女性と並ぶと美男美女のカップルに見える。
「おい。いつになったら目的の場所に着く？」
「いつもならもうとっくに着いてる頃だ。」
「じゃあなんで着かない？」
「それは・・・この人達に聞けよ」
涯はその時になってやっと目の前にいる男女に目を向けた。

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俺は図書館に行くついでに交番に万年筆を届けようと思って机の中を見た。
「おじちゃんなに見てるの～？」
「ん？あぁ、ちょっと拾った物があるから交番に持っていこうと思ってさ」
俺は万年筆を取り出した。
「その万年筆をどうするつもりだ？」
「俺のものじゃないし、交番に届けて・・・持ち主が現れなかったら・・・その時は俺の物かな」
「ややこしいな。そのまま持ってたらだめなのか？」
「こういうものはいったん交番に・・・」
「おじちゃん？」
「なんだ？」
「何も持ってないじゃない」
「え？」
透は怪訝そうな顔で俺の指先を見ている。
「見えないのか？ここに・・・ほら」
「何も見えないよ。」
「明は？」
「ん～みえない。」
俺と涯には見えているのに透と明には見えていないらしい。ガラスに写った俺の指先にも万年筆は無い。
「どういうことだ・・・？」
「どうやら俺とお前にしか見えないらしいな。」
「よく分からないけど、とりあえず図書館に行こうよ」
俺は万年筆を引き出しにもどした。もし、俺と涯にしか万年筆が見えないなら交番に持っていったところで変人扱いされるだけだろう。
「じゃあ図書館に行くか」
涯に刀を置いていけと言ったところで聞くわけが無いので、説得を諦めてそのまま図書館に行くことにした。俺が住んでる場所から図書館までは少し距離があるので、移動には地下鉄を使う。
「地下に入るのか」
「地下鉄に乗るからな」
「チカテツ？」
「地面の下を電車が走ってるんだ」
「デンシャ？」
移動中もずっと涯の質問攻めにあっている。
「本当に何も知らないんだね」
「なんだこれは？」
「切符を買うんだ」
「キップ？」
｢電車に乗るのに必要になる」
「・・・なんて書いてあるんだ？」
涯は販売機に書かれている文字が読めないらしい。何の問題もなく会話が成立しているのは、俺の作品が日本語のみでしか書かれていないせいなのかもしれない。

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「おじちゃんも分からないよ・・・」
俺は弱弱しく答えるしかできない。
「あるのか？無いのか？」
涯はまだ「普通じゃないチャーハン」のことを言っている。
「まだ引っ張るのかそのネタ！」
「ネタ？」
「お前と話してると疲れる・・・」
「おじちゃんがんばって！」
明は分かってるのかいないのか横から励ましてくれている。
「とりあえず食ったら・・・出かけるか」
「どこにいくの～？」
「透と明が行きたい所でいいぞ」
「じゃあ図書館がいい」
「ぼくもとしょかんいきたい」
「トショカンってなんだ？」
涯の発言に透と明はポカーンとしている。
「頼むからこども達の前でそういう発言をしないでくれ・・・」
「変なことを言ったか？」
本人に変なことを言っている自覚が無いから困る。
「としょかんはね～ほんとかDVDとかがいっぱいあってね～」
「ディーブイディー？」
「おじちゃん・・・この人何も知らないの？」
透が小声で聞いてくる。
「ちょっと変わった事情があってな・・・」
「記憶喪失とか？」
「まぁ・・・そんなところだ」
「大変だね。」
透はそれ以上追及してこなかった。
「DVDはね～なかにえいぞうがはいっててね～きかいにいれてさいせいするの」
「まるで呪文だな・・・」
「おにいちゃんもみたらわかるよ～」
明が涯を図書館に誘っている。この部屋から出るときに涯が刀を持ったままだと非常にまずいが、残念なことに俺には涯に刀を手放させるアイディアがない。

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オープニングから乗り遅れる俺（爆）微妙に始まってました・・・なんで突然ロキが出てくるんだ・・・っていうかフュリーさんが明日のジョーのあの人にしか思えないんですけど！眼帯キャラだからですかね？！そしてしょっぱなから敵に心奪われちゃう（そう言う意味じゃなくて）ホークアイさん・・・なんだこの人！？マインドコントロール？！しかも敵に・・・というか、ロキに四次元キューブなるアイテムを奪われちゃうという不始末・・・なんだよ四次元キューブって！ドラ●もんか？！四●元ポケット的なアレか？！
　そして場面はロシアに、敵に捕まり拷問？されてるブラックウィドウさん。一本の電話を受けて、ピンチだったのが嘘みたいに敵をフルボッコする。椅子に縛り付けられてる状態から敵にダイビングして椅子ぶっ壊すとかどんだけだ・・・？！　
　次の場面はインド（？）に、謎の少女に頼まれて人気の無い小屋にやってきた眼鏡の男。誰かと思ったら変身前のハルクでした。本体こんなんだったっけ？！とりあえずブラックウィドウの説得に応じて仲間に（？）。なんていうか場面の切り替えが早くてついていけないよ！
　ここで、キャプテンアメリカ登場。この人実は70年も寝てたから、見た目は若いのに中身は爺さんなんですよね・・・！大戦中の人なんですものね！マーブルＶＳカプコンの時はやたらシールド投げる人のイメージがありましたが、実際めっちゃシールド投げてきます。ほぼ同時ぐらいにアイアン社長も登場。めっちゃすごいビルに住んでます。ポッツさんといい雰囲気のところ邪魔されてなんか不機嫌な社長・・・まぁ、この戦いが終われば思う存分いちゃつけますよ（爆）
　ロキの方はというと、どこかのパーティーに潜入・・・なんか地位高そうな人の眼球を奪って、秘密の金庫的な場所からなにやら分からん道具を盗みます。実際盗んだのはホークアイですがね！っていうかロキ分身とか使えたんだ・・・・跪けとか言って、民衆を跪かせます。そんな中「お前のような奴に・・・」といって爺さんが反抗します。ロキが爺さんを攻撃したタイミングでキャプテンアメリカ登場！出た瞬間はかっこよかったんだけど、ロキは強かった・・・！ピンチかと思ったらかっちょいい音楽と共にアイアン社長が登場。手からビームでロキをフッ飛ばします。問答無用だね！そしてかなりあっさり投降しちゃうロキ。なんなんだこの人・・・怪しいゾ。
　ロキを護送中に突然空が荒れだして雷が・・・と思ったらソーが出てきてロキを連れて行っちゃいます。助けに来たのか？！と思ったら、違ったらしくて。家に帰れ的なこと言ってました。意外と普通だよお兄ちゃん・・・。もしかしなくても、これって壮大な兄弟げんか？？そして話してる最中にアイアン社長がやってきて、なぜかソーと戦いだす。まぁ、紛いなりにも神様なソー相手にけっこう頑張ったと思いますよ？仲裁に入ったキャプテンアメリカは、ソーの一撃をシールドで防いでました。あのシールドどんだけ固いんだよ・・・！
　っていうかアベンジャーズは最初っから協調性あったわけじゃないんですよね。スパロボ大戦みたいに、作品が違うキャラ達が集まってすぐに協力・・・みたいな流れじゃありません。
　そしてロキの策にはまって空飛ぶ要塞が攻撃され、ハルクが大暴走。ホークアイまで乗り込んできて、ブラックウィドウと一対一のバトルをしたり、ソーＶＳハルクで要塞の中がさらに壊れたり、堕ちかける要塞を落とさないためにアイアン社長が頑張ったりします。なんとか要塞は無事でしたが、仲間達はバラバラになってしまいます。　そしてついにロキが異世界の扉を開くことに成功・・・マンハッタン島上空から次々と敵が襲ってきます。人類のピンチに・・・というかマンハッタン島の人々のピンチに集まるアベンジャーズ。ここからは派手なバトルシーンばかりです。容赦なくビルを破壊していく敵たち。おなじくらい街を破壊するアベンジャーズ・・・どっちも酷いな！逃げ惑う人々・・・は特撮映画のお約束ですね。異世界の扉を閉じるために頑張るアベンジャーズですが、上層部の人が核ミサイルをマンハッタン島に向けて発射・・・待て待て。敵だけじゃなくてマンハッタン島の人達も消し飛ばすつもりか！と思ったらアイアン社長が異世界の扉を通って核ミサイルを敵母艦（？）にぶつけるというびっくりな展開。帰れないかも・・・！ポッツさんに連絡しようとするのに、連絡できず（´；ω；｀）力尽きて地表に落ちてくるアイアン社長をキャッチしたのはハルクでした。ＣＭでやってたのはこのシーンですね。
　最終的に敵勢力は力尽き、四次元キューブはソーとロキの手で元の場所に戻されましたとさ。そして、アベンジャーズは散り散りになり、消息不明。エンディングの後で意味深なシーンが入って終了。

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「こんなのばっかり食べてたら体に悪いんだよ？」
透は呆れた顔で別の生き物みたいになったカップ麺を見ている。
「体に悪い物を俺に食わせようとしたのか？！殺す気か？！」
身体に悪いという単語に反応して涯が俺を睨んでいる。
「へんなの～かっぷめんたべてもしんだりしないよ～？」
「今体に悪いと言っただろう」
「食べ続けたら健康に悪いってだけで、すぐに死んだりしないよ？」
「そうなのか？」
「褒められる食生活じゃないのは確かだけどね。おじちゃんこのひどい状態でも食べる？」
膨張した麺がカップからはみ出していて、見た目的にもおいしそうではない。
「食えないことはないだろ。量も増えてるし！」
「おじちゃん・・・それは増えてるんじゃなくて、膨らんでるだけだよ・・・」
透は哀れな生き物を見る目で俺を見ている。
「のびたらーめんはおいしくないってママもいってるよ～」
明が追い討ちをかける。
「不味い物を俺に食わせるつもりか？」
涯がさらに俺を睨む。
「っていうか、カップ麺食べさせられそうになった時点で普通分かると思う・・・」
透は哀れみの目を涯に向けている。明も真似して涯を見ているが、こっちは眠そうな目にしか見えない。
「俺は食ったことが無いから分からん！」
「おいおい子供相手にむきになるなよ大人気ない」
「おじちゃんご飯ある？」
「ん？あぁ冷凍してるやつなら・・・」
「じゃあちょっと待ってて・・・いまチャーハン作ってあげるから。」
「ぼくも！ぼくもてつだう！」
透はそう言うと冷蔵庫から適当に材料を出して準備を始めた。
「おい。こどもに刃物を持たせるのか？危ないだろう」
「慣れてるから大丈夫だよ。」
透は5歳ぐらいの時から母親の手伝いをしてるせいか、今では本を見ないでも料理を作れるようになっている。弟の明もお兄ちゃんの真似がしたくて仕方ないらしい。
「はいどーぞ」
「なんか悪いな」
「いつもお世話になってるからね」
「すごいな・・・」
「普通のチャーハンだけどね」
「普通じゃないチャーハンもあるのか？」
「へ？」
「普通のがあるなら、普通じゃないのもあるのか？」
「おじちゃん・・・この人何言ってるの？」
透が耳元で俺に尋ねてきた。俺も涯がなにを言ってるのかちょっと分からなくなってきた。

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俺は突然鳴り出したケイタイを涯から死守するのでいっぱいいっぱいだった。なにしろ先月スマホに替えたばかりでローンが残っているのだ。ここで斬られたらシャレにならない。
「もしもし」
「もしもしぃ～？祥太郎？」
電話の相手は妹の灯（アカリ）だった。背後では子供の声がしている。
「・・・今日はなんの用だ？」
「用が無いと電話しちゃダメなの？まぁ・・・用があるから電話したんだけどさ～」
「友達と遊びに行くから子守して～ってか？」
「そうそう。よく分かったね～」
「よくわかったね～・・・じゃないっつの。だいたい今それどころじゃ」
「もう約束の時間なんだよね～。んじゃよろしくぅ～」
灯は有無を言わせず電話を一方的に切った。妹はいつもこんな調子で俺に息子達を押し付けていく。上は小学1年生で、下は5歳だ。名前は透（トオル）と明（アキラ）で、二人合わせると透明になる。
「これはなんだ？女の声がしていたが」
涯は俺のケイタイを不思議そうに見ている。
「ケイタイだ。これがあれば遠くにいる人とも話ができる」
「遠くにいる人間とどうやって話すんだ？」
「それは電波を使って・・・」
「デンパとはなんだ？」
そんなやりとりをしているうちにピンポンが鳴らされた。
「この音はなんだ」
「お客さんが来たって合図だ」
俺は玄関のドアを開けた。電話が来てから数分も経っていない。こんな短時間で家の前に来ているということは、電話をした時にはアパートの前にいたんだろう。
「おじちゃんおはよう」
「おはよう。中に入って」
「おじゃましまーす」
「おじゃまーす」
甥っ子達を部屋に入れて玄関を閉める。
「おじちゃんお客さん来てたの？」
「ん？あぁ、気にしなくて大丈夫だよ。」
「なんだその子供は。お前の子か？」
「俺の妹の子供だ。」
「おじちゃん朝ごはんの最中だった？カップ麺のびてすごいことになってるけど」
透に言われてカップ麺を見ると中身が膨張してなんだか別の生き物みたいになっていた。

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現代日本を舞台にしている漫画などで、武器を持ち歩いていて警察にとがめられないということはよくある話だが、俺の暮らしている場所では武器を持ち歩けば警察に捕まる。法律に定められているからだ。もし仮にこれが漫画か小説で、俺が主人公だとしたら作者はそうとうひどい奴だ。わざわざ俺を30代の売れない小説家にする必要など無いだろう。年齢＝恋人いない暦なんて、悪意があるとしか思えない・・・と、そこまで考えてから俺は再び目の前の男を凝視した。男は刀を大事そうに持ったまま、まるで敵でも見るかのように俺を睨んでくる。俺は諦めの境地に達した。よく考えれば男が刀を持ったまま外に出なければ問題ない。
「分かった。ここにいる分には刀は持っていていい。」
「お前の指図は受けない。それより腹が減ったと言っている」
「とりあえず名前だけでも聞いておこうか？」
「涯」
俺は分かりきっていることを尋ね。男は予想通りの答えを返してきた。
「お前の名前は？」
「祥太郎だ」
「長いな。ショーでいいだろ」
作品にとって作者はいわば創造主といったところじゃないのか？とか思ったが、ここでお前を作ったのは俺だなんて言ったら極度のアレだと思われるか、最悪斬り捨てられる。
「ところで何を食いたいとかあるか？」
「そうだな肉・・・」
「生憎だが肉は無い。俺だって久しく食ってない」
「だったら何ならあるんだ」
俺は冷蔵庫を見た。入っていたのは卵と牛乳と味噌と中濃ソースと・・・とりあえずすぐに食べられそうな物は何も無い。次に台所の下の棚を探してみた。カップ麺と、レトルトカレーとパスタと牛丼の素とレンジでチンするご飯があった。とりあえずお湯を沸かしてカップ麺を作ることにする。
「なんだこの奇妙な物は？食い物か？」
涯はカップ麺を奇怪な物を見る目で見ている。そういえば、涯のいる世界にはカップ麺なんていうものは存在していない。俺の部屋に今あるような物は涯にとっては初めて見る物ばかりだろう。
「お湯を注いで3分待つ。そんで完成だ」
「サンプン？」
俺はタイマーを持ってきた。
「音が鳴っても斬るなよ。ここの数字がゼロになったら出来上がりってことだ」
「奇妙なからくりばかり持っているんだな」
「そういえばテレビはどうやって付けたんだ？」
「あの箱か？よく分からん」
そうこうしているうちに俺の携帯が突然鳴り始めた。

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よく考えれば俺のような知名度の低い作家の作品の主人公のコスプレをするような人間がいるわけがないのだ。漫画化もアニメ化もゲーム化もされておらず、ビジュアル的なデータもほとんど存在しないのに、衣装を作れるわけが無い。
「とととにかく、おお落ち着いて話そうじゃないか」
「お前が落ち着け」
俺は情け無いほど動揺していた。目の前には、凶器を持った男が立っているのだから、多少どもっても仕方ないと思う。
「日本では刀を持つには許可がいるんだ。法律でそう決まってるからな」
「俺はニホンもホウリツも知らん」
「今俺達がいるここが日本なんだ」
「ずいぶんと狭いな。まるで犬小屋だ」
「ここだけじゃなくて、もっと広い範囲だ。今地図を出すから・・・」
俺はパソコンを起動させた。
「なんだその奇妙な箱は」
「パソコンだ。」
俺は画面に世界地図を出した。
「ここが日本だ。俺達がいるのはこの辺りだな」
「どちらにせよ小さいな」
「小さかろうとなんだろうと、こので暮らしているからには、ここのルールに従わなきゃならないんだ。」
「俺から刀を奪うのか？」
「奪うとかそういうことじゃなくて・・・」
「俺に刀を手放せということはそういうことだろう」
「頼むから刀から手を離してくれ ・・・斬られそうで怖い」
「お前のような奴を斬ったりするための刀じゃない」
男は何があっても刀を手放しそうにない。どうすればいいのか分からなくなってきた。

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